1文字の違いが、がんを引き起こす

1文字の違いが、がんを引き起こす

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動物のがんウイルスに関係するこういった発見をすることで、盛り上がりを見せた研究者たちは、もっと本質的な問題、つまり人間のがんの原因の研究に取り組み始めました。しかし、前述したとおり、人間からがんウイルスを発見するというのは、例外はあったにせよ、ほぼ失敗続きでした。そこで研究者たちは矛先を変えることにします。

 

レトロウイルスのがん遺伝子は、かつてウイルスに感染した動物の細胞から発見されたものです。動物ががん遺伝子をもっているとすれば、人間が同じように遺伝子を持っていても不思議ではありません。

 

1文字の違いが、がんを引き起こす

 

そこで研究者たちは、ハワード・テミンが考えたウイルスの検出方法を使って、人間の“がん遺伝子”を見つけ出そうとしました。1980年代はじめごろのことでした。この方法の感度はとても低いものでしたが、人間の膀胱がんの細胞から、なんとか細胞をがん化させる遺伝子を発見することができました。

 

驚いたことに、この遺伝子の遺伝信号は、マウスのがんウイルスから発見されたがん遺伝子(ras:ラス遺伝子)とほぼ同じものでした。しかも、これを人間の正常な細胞内の同じ遺伝子と比較してみたところ、がん細胞の遺伝子は、約600文字からなる遺伝暗号のなかで、たった1文字の違いしかありませんでした。

 

 

たぶん、膀胱の細胞に発がん物質が影響をおよぼして、1文字の変化が起きると、この遺伝子はがん遺伝子となってしまうのでしょう。そして、ウイルスが感染したときと同じくがんが生まれると考えることができます。

 

この発見は、遺伝子が変異することががんの原因になることを証明したとともに、発がんの原因として別々に研究されてきたウイルスと遺伝子変異の関係を、思ってもみなかった形で明らかにしました。


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