細胞を増殖させる遺伝子について

細胞を増殖させる遺伝子について

このエントリーをはてなブックマークに追加  

歴史の上で、一番最初に見つかったがんウイルス(腫瘍ウイルス)は、「ラウス肉腫」でニワトリに感染するものでした。このウイルスがもっているがん遺伝子は、ある酵素(チロシンキナーゼ)をつくりだします。

 

この酵素がどういったはたらきをするかというと、おもにたんぱく質をつくっているアミノ酸の一種(チロシン)に、リン酸という物質をつけます。このリン酸化が細胞内で起こると、何個かの遺伝子のスイッチがON・OFFを繰り返し、その結果、細胞が増殖します。

 

要するに、がんウイルスが細胞にがん遺伝子を持ってくると、チロシンキナーゼが異常によく働き出すために、がん細胞がつくりだされることになるのです。サル、ネコ、マウス、ニワトリなどの動物を宿主とするがんウイルスからも、がん遺伝子がいくつか見つかりました。それらは、ある種類のホルモンや、それを受け取る分子(受容体)、その信号を細胞の中に伝える分子などをつくりだすものでした。

 

細胞を増殖させる遺伝子について

 

受容体とは、いわば専用のアンテナのようなもので、細胞の外からくる特定の物質の刺激だけを受け取るはたらきをします。この分子がホルモンの信号を受信すると、さきほどの酵素と同じはたらきをして、細胞増殖のきっかけとなります。

 

正常な細胞は、細胞が増えるべきときに、必要なぶんだけホルモンが供給されます。そして、細胞表面の受容体がホルモンを見つけたときだけ、細胞内に変化が起きます。こうやってはじめて細胞分裂のきっかけとなる遺伝子が働き始めるのです。

 

 

しかし、がんウイルスが感染してしまった細胞は、自分自身でホルモンを大量に生産したり、受容体がホルモンを感受してもいないのに、細胞内を勝手に変化させていったりします。つまり、このような細胞は、上流から指令がなかったとしても、下流に「増殖せよ」という命令を送るということです。結果、細胞は、実際の信号がどうなっているかなど気にせずに分裂し始めます。

 

要するに、細胞内や細胞どうしの間で「増殖の信号が勝手に伝わっていく」ことこそが、がんウイルスを引き起こすしくみだと思われています。ところで、がんウイルスにはRNAを遺伝物質とするレトロウイルスが多いのですが、そのがん遺伝子には、共通する特徴があります。それらの元になったのがどれも細胞の遺伝子であるということです。

 

 

宿主の細胞内にレトロウイルスが感染すると、そこで自分の遺伝情報をもつRNAからDNAがつくられます。このDNAは宿主の染色体に組み込まれ、RNA(つまりウイルス自身の遺伝物質)をつくる機会を待つことになります。

 

とすると、思いつくのは、宿主細胞がウイルスRNAをつくりだしたときに、宿主細胞の遺伝情報をもつRNAと、ウイルスRNAが間違って合体したものが生まれたという可能性です。別の言い方をすると、がんウイルスの大元は、宿主細胞の遺伝情報の一部を盗み取って自分のものとしたということです。

 

その時(あるいはその前後に)、宿主細胞の遺伝子暗号の一部が変化をして、活性が激しくなったたんぱく質もしくは大量のたんぱく質を生み出す能力を持つことができたと推測できます。こういったがんウイルスは、感染した細胞に抑制の効かない異常な細胞分裂を与えると考えられています。


このエントリーをはてなブックマークに追加