がんの転移先は、どのようにして決まるか?

がんの転移先は、どのようにして決まるか?

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ドイツがん研究センターの分子生物学者ヘルムート・アウグスティンらは、さらに別の着目点でがんの転移にアプローチしています。がん細胞が転移する過程において、どのようにしてたどり着いた臓器に定着するのか、つまり健康な細胞をどうやって蝕んでいくかです。

 

ある臓器で発生したがん細胞は、特定の臓器に転移する傾向がみられることから、アウグスティンらのアプローチはスタートしました。悪性黒色腫は皮膚のみならず、肺、腎臓、脳にも転移する傾向があり、乳がんは骨、肺、肝臓、皮膚、脳に転移しやすいことがわかっています。

 

がんがどこにでも転移するわけではないことについては、19世紀末にすでにイギリスの研究者スティーブン・パジェットが仮説をたてていました。ある種のがんは、特定の場所を選んで転移をすることを「タネと土壌仮説」と名付けた観察結果で発表していたのです。

 

がんの転移先は、どのようにして決まるか?

 

この仮説によると、がん細胞は充分に肥沃な土壌においてのみ転移し定着する、ということになりますが、当時はまだ科学的に実証されたわけではありませんでした。この仮説を分子生物学レベルで実験し説明したのが、アウグスティンの研究グループだったのです。

 

原発がんから剥がれ落ち、血流にのったがん細胞は、まず血管の壁に付着しなければその後ろにある臓器にたどり着けません。血管壁に付着するために、がん細胞の表面あるたんぱく質分子チロシンキナーゼと、血管壁の内側ある膜貫通たんぱく質エフリンB2が結合します。このチロシンキナーゼとエフリンB2の結合は血管壁の成長を促す一方、がん細胞が血管壁へ付着する機会を与えてしまっているのです。

 

がん細胞は血管壁への付着に成功すると、次に血管の外にでていき、その後ろにある臓器や器官に入り込んでいくのです。アウグスティンらの動物実験では転移の多くは肝臓、肺、腎臓でおこることがわかりました。これらの臓器内部の血管がエフリン2受容体をもっていることから、がん細胞が入り込みやすい状態になっているのです。

 

 

さらに、臓器侵入に成功したがん細胞は、しっかりとその侵入口を自ら閉めてしまいます。アウグスティンらはがん細胞表面にあるチロシンキナーゼ受容体と移転の可能性のある臓器、肺内部の血管にあるエフリンB2の働きを、化学物質を用いて遮断する実験をしました。すると、悪性黒色腫の細胞は血管壁に付着せず、結果としてがん細胞の肺への転移は起こりませんでした。

 

ドイツだけでなく、アメリカの研究チームもまた、チロシンキナーゼ受容体の通路に作用する抗体を使った実験結果を出し、腫瘍の成長をコントロールすることができる可能性を示唆しています。

 

これらはあくまでも動物、あるいは培養細胞を使った実験結果であり、分子治療として人間に応用できるようになるのはまだ先のことと言えそうです。一方、製薬会社の一部はこの実験結果の原理を実用化すべく動きだしているようです。


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