がん幹細胞の発見について

がん幹細胞の発見について

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がん幹細胞」は、1990年代末にカナダのトロント大学のジョン・ディックによって発見されました。きわめて少数しか存在しないこの細胞は、がんの生命の源とされていますが、一方、正常な幹細胞こそ生命の源であるともいえます。このパラドックスは、どのように説明したらよいでしょうか。

 

幹細胞は胚の発生をコントロールし、生物の健全な成長を守る働きがあります。幹細胞から分化された多様な細胞が、皮膚や血液細胞を補修して組織をメンテナンスしているのです。幹細胞は不死身といわれています。自己再生を続けることができる上、外部から毒となるものが入ってきた場合は、素早く排除できます。幹細胞はあらゆるものからしっかり守られ、生命を保障されているのです。

 

幹細胞は体のきわめて深い部分の特別な場所に、ごくわずかしか存在しません。その数は、細胞10万個につき1個ともいわれています。そして、幹細胞はとても生命力の強い細胞なので、人の健康に都合よく働いてくれている時はとてもありがたいのですが、ひとたびその反対の働きになると、恐ろしいことになります。それはがん幹細胞となって暴れ出す時です。

 

がん幹細胞の発見について

 

半世紀も前からすでに科学者たちは、がん細胞の存在に気がついていました。がんの腫瘍の中にはごく少数の細胞があり、それらは不死身である上に、つねに新しい細胞をつくりだしているのではないかという漠然とした概念をもっていたのです。

 

近年になって、技術の発達によりその存在が確認できるようになり、科学者たちは、がん幹細胞こそ、体の中で腫瘍が成長する根源に違いないという見方を強めてきています。がんは、まずいくつかの正常な幹細胞が変異を繰り返すことにより、最初のがん幹細胞に変異します。さらにがん幹細胞が増殖していくと、腫瘍に成長していきます。

 

実は、抗がん剤の化学療法は、急速に分裂を繰り返している腫瘍細胞には効果があるものの、ゆっくりと分裂しているがん幹細胞にはあまり効果がないのです。ですから、一見腫瘍がなくなったように見えたとしても幹細胞は生き残ってしまう可能性があります。切除や化学療法でがんを消し去った後に、しばらくして再発するのはがん幹細胞が生き残っているからだといえます。

 

 

ドイツがん研究センターの分子生物学者アンドレス・トランプによれば、がん幹細胞の休眠期間は数週間とも数年ともいわれ、がんの再発時期の予測は不可能です。がん幹細胞は休眠した後に活動を再開するのですが、その理由はわかりません。

 

トランプ博士はがん幹細胞の専門家で、アメリカのノーベル賞学者マイケル・ビショップの研究所で働いた後に、スイス実験がん研究所で幹細胞の教授となりました。その後にドイツがん研究センターにやってきました。

 

彼はがん幹細胞の研究を、生物学としてだけではなく、今後のがん治療や新薬開発を目標として行っています。なぜなら、がんの根源であるがん幹細胞を破壊することで、これまで不可能であったがんの完治を実現できるかもしれないからです。彼が所長をつとめるトランプハイデルベルグ幹細胞研究所は、がん幹細胞の研究成果を新薬開発や臨床現場に応用するために設立されたのです。


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