コールタールで、がんが発生する

コールタールで、がんが発生する

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現在から2000年あまりさかのぼった18世紀後半、ロンドンの外科医であったパーシバル・ポットは、煙突掃除夫たちがよく発症する「すずいぼ」という病変に注目してくわしく調べました。

 

「すずいぼ」とは、要するに陰嚢がんのことですが、ポットは潜伏期間や病気の原因、早期治療の方法などをまとめて、その先駆的な研究成果を1775年に発表しました。しかし、患者が特殊な職業で、煙突掃除夫(ほとんどが少年)という限られたものだったためか、この病気は長い間注目されずにいました。

 

コールタールで、がんが発生する

 

1858年、病理学の父といわれているドイツのルドルフ・ウィルヒョウは、『細胞病理学』という教科書の中で、「すべての細胞は細胞から生まれる」という考えを述べています。がん細胞も細胞の一つなので、要するにウィルヒョウは、がんが細胞の異常増殖によって発生するという考えを明言したのです。

 

ウィルヒョウの研究室へ留学していた東京大学教授の山極勝三郎は、1915年に日本に戻り、我慢強い助手の市川厚一と一緒に、数羽のウサギの耳に傷をつけ、1日おきにコールタールを塗るという実験を根気強く続けました。

 

 

実験をはじめてから150日目、ついに処置を繰り返したウサギの耳から腫瘍が発見されました。つまり山極たちは、世界ではじめて人工的にがんを作り出すことに成功したのです。後に、この実験でがんを発生させたのは、コールタールの中の「ベンツピレン」という化学物質であることが明らかになりました。

 

その後、「エイムスの方法」という簡単な検査法がうまれたため、現在では、ある化学物質に発がん性があるかどうか調べるには150日も費やす必要はなくなり、一晩で分かるようになりました。

 

 

しかし、山極、市川の実験は、がんを発生させる可能性のある化学物質や、その発生の過程を調べる「化学発がん」というひとつの注目されるべき研究分野を切り開いたので、今日でも世界的に高い評価を得ています。


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