ウイルスが生み出すがんとは?

ウイルスが生み出すがんとは?

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1911年、ロックフェラー研究所のペイトン・ラウスと京都大学の藤浪鑑(同じくウィルヒョウの弟子)がニワトリに肉腫を発生させるウイルスを突き止めました。これが最初に見つかったがんウイルス(腫瘍ウイルス)」です。彼が見つけたウイルスは、ラウスの名前から「ラウスウイルス」と名付けられました。

 

生物と無生物の間くらいのようなものがウイルスです。構造としては非常に単純で、たんぱく質などでできた殻に遺伝物質が包まれているだけです。なので、細胞に寄生することによって、ウイルスははじめて増殖することができるのです。

 

ウイルスが生み出すがんとは?

 

1958年に、カリフォルニア大学のハワード・テミンとハリー・ルビンはニワトリの胎児の細胞をシャーレの中で培養し、その培養したものにラウス肉腫ウイルスを感染させました。数日間培養を続けた結果、一部の細胞が異常に増えていて、目に見えるほどの細胞塊──つまりがんのような構造──がつくられていました。

 

この方法さえ試せば、ウイルスがどのように増えるかや、細胞ががん化する過程を簡単にしかも数値的に調べることができます。この実験から、がんウイルスを科学的に研究するための基礎ができていったのです。

 

 

そして、研究者として独立したテミンは、この方法を使ってラウス肉腫ウイルスに対する色々な薬剤の影響を調べ始めました。彼は、あるとき不思議な現象に出会いました。理論的に考えた場合、効くはずがない薬がウイルスの増殖を完全に止めたのです。

 

彼はこのウイルスの複製方法に関していっぷう変わった仮説を立て、この現象を説明しようと試みました。それは、その頃の分子生物学者たちの間で定説となっていた“常識”とは全く逆のものでしたが、テミンは常識よりも自分の目で見たものを信じたのです。

 

 

それから10年以上、同僚から無視され続けても研究を行っていたテミンは、彼の研究室に留学しにきていた日本人研究者・水谷哲と一緒に、ついに彼の仮説を立証するものを、1970年にラウスのウイルスから見つけ出したのです。それは「逆転写酵素」というたんぱく質でした。

 

それと同時期に、MIT(マサチューセッツ工科大学)のデイビット・ボルティモアも、マウスの白血病ウイルスから同じたんぱく質を発見しました。こうして今までの常識が覆されたわけですが、皮肉なことに、その後、逆転写酵素は、分子生物学者たちにとってなくてはならない道具として使われることとなりました。

 

常識では考えられない酵素をもつ白血病ウイルスや、肉腫ウイルスは「レトロウイルス」(レトロはラテン語で“逆に”“戻る”という意味)と名付けられ、トリやマウスだけでなく、サルやネコからもどんどん発見されました。

 

 

しかし、人間からはなぜか白血病の一種やエイズを引き起こすレトロウイルスが発見されているだけで、肉腫ウイルスは未だに見つかっていません。

 

 

放射線で白血病になったキュリー夫人

 

「がんウイルス」や「発がん物質」に比べて、少し遅れて注目を浴びるようになったがんの原因として、X線などの「電離放射線」や太陽光に含まれる「紫外線」があります。キュリー夫人は、放射性物質ラジウムを長い年月をかけて研究してきましたが、白血病で亡くなってしまいました。

 

その後、放射線をたくさん浴びたり長い時間かけて浴びた人々の発がん率が一般の人に比べて高いことが、だんだんはっきりしてきました。それだけでなく、オーストラリアやアメリカ南部などの紫外線の強い地域で生活している白人が、皮膚がんになりやすいことも知られています。

 

なので、このあたりの地域では、がんと紫外線の関係についての研究がとても熱心におこなわれています。


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